もうなんのブログだかわからない

現在も原発警戒区域に指定されている楢葉町。そこにひとつの牧場があった。
「Farm Arcadia(ファームアルカディア)」
60頭余の牛を生かすため、牧場主の根本さんとボランティアの手によって設立された。

未だ家畜を生かす気のない政府の姿勢を前に、さまざまな制約を受けながら、一銭の利益も生まない牛たちに莫大な費用と手間をかけて養うのは容易なことではない。
それでも地道に日々のお世話を続け、今後の展望を模索していたアルカディアを更なる不幸が襲った。今から約1ヶ月ほど前の5月末。牧場主である根元さんが体調不良により倒れ、復帰困難になってしまったのだ。
専門的な知識と技術が無ければ、日々のお世話すらままならない牛たち。他にも協力してくれる農家さんがいるとはいえ、牧場主不在のままやって行くことなど出来るか?

人づてに根本さんの体調不良を聞き、心配に思いながら何も出来ないまま日々は過ぎた。
そして、10日ほど前の6月18日。すっかり更新を停止していたアルカディアのブログに、一つの記事が載る。
◆緊急:ひとことメッセージのお願い(20日早朝まで)
アルカディアの牛たちについて殺処分の判断を迫られている。ついては、期限となる20日早朝までに、牧場主さんへの応援メッセージを送ってほしいという内容。この呼びかけは大きな反響を呼び、ブログには実に800近いメッセージが寄せられることになった。

私はとても複雑な気持ちだった。
多くの声で励まさなければならない程、牧場主さんは殺処分の意向を固めているのだろう。
それを止める権利なんてあるんだろうか? だれに? なぜ?
被災から1年に渡って牛を生かそうとしてきた農家さん。殺処分への同意は苦しみぬいた苦渋の決断に違いない。実際に牧場を手伝えるわけでもないのに、わら一つ、水一滴運んだことのない私が、どの口でそれを「やめろ」と言えるのだろう。

この時、私の考えの一部は、後にアルカディアのブログで紹介される根本さんの言葉と、とても似たものだった。
「牛の扱いは、素人じゃ出来ないよ。牛飼いというプロの仕事だ。オイラがいる間はいいけども、オイラがいなくては、みなさんだけではとても無理な仕事だ。お金だってかかる。それも牛が生きてる限り、10年、20年。
はじめは、みなさんも気持ちが高揚してるから続けたいと思うかもしれない。だけど、3年、5年経ったらどうだ? お金は集まらなくなるし、家庭崩壊だってあるんだぞ。牛は犬や猫とは全然違うからね。
たくさんの人がこの牧場に支援金を送ってくれて、あるいはまたボランティアで来てくれてることは百も承知だ。だけども、だからこそいまのうちに辞めておいた方がいい。続ければ、この先みじめになる、牛も、みなさんも、必ずみじめになってしまうから。」
旧Farm Arcadiaのブログから引用)

犬猫ですら、活動にのめり込むあまり人間関係や職場環境が悪くなるケースを私は知っている。というか私自身にも、そんな部分はある。
「生かしたい。」とても純粋で美しい気持ちだけれど、そのためなら何を壊してもいいのだろうか。まして「生かしてほしい」と他人に願うことは、その人生を捧げろと言っているに等しい。
私の中で、たくさんの疑問と迷いが渦巻く。けれど、やはりこの活動を応援したいと思ったのは、牛たちを支えようとするボランティアさんに思いを馳せたからだ。その中の一人、私の知るその人は、主婦だ。
原発警戒区域の牛を生かす、主婦。
そんなとてつもない人を応援しないわけに行かない。

気持ちだけは送ったつもりの間に、また数日が過ぎた。殺処分は無事に回避されたとブログに新たな記事が載る。しかし、では今後どうするのか?については何の記載も無い。
また数日が過ぎ。ざわざわと噂が飛び交い、6月26日。アルカディアと、原発警戒区域である浪江町で約300頭の牛を生かしている「希望の牧場」に、それぞれブログ記事が更新される。
◆行くさきは、「希望の牧場」
◆【お知らせ】旧ファームアルカディアの牛約60頭、希望の牧場へ

旧アルカディアの牛たちは、ひとまず希望の牧場を間借りして生きることになった。
この決断が、互いの牧場スタッフや、なにより牛たちにとって「幸い」であるのかは、これから決まっていくことだろう。そして「幸い」にするのは容易なことではないだろう。

私たちは大動物のことを何も知らない。実感を持って、そのリアリティを、肉体を想像することは難しい。
それでも、あす牛60頭を移動しますと言われて、その作業に想像力を振り絞ってみる。
まず、牛たちをトラックの近くに移動させ、2台にわけて乗せる。この作業には手練の技と牛の協力が不可欠だ。素人がぐずぐずしていたら、この段階で日が暮れてしまうだろう。車に乗せたら牧場間を移動。楢葉から浪江だと片道1時間くらい。到着したら牛たちを下ろし、しかるべき場所へ移動させる。60頭だから、それを6往復。
1日では無理だろうと思った。というか普通、無理だと思う。夜明けから未明までというわけにも行かないし、作業するスタッフにだって食事やトイレの時間も必要だ。

でも、希望の牧場は、吉沢さんは、それをやってのけたのだ。
農水省の妨害に合いながらも、わずか一日で全頭を移動して見せた。
「すげえなぁー」
と、思わずパソコンの前で声に出していた。

未だ、牛たちを取り巻く状況は明るいものではない。「希望」なんて本当にあるのか分からない。
それでも、「すげえなぁー」と、プロの牛飼いに、一意のボランティアさんの熱意に唸らされる日を目指して、私もまた、諦めないでいようと思う。
 
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2012.06.28 / Top↑
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